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2018-03-21

池澤夏樹さんが、南米パタゴニア地方を旅する番組を見る、そして思う。。

このところ素敵な番組をテレビで見ている。昨夜は録画しておいた、池澤夏樹さんがパタゴニアを旅するドキュメントを妻と共に見た。

マゼラン海峡を出発点に、日本のおおよそ5倍の面積を持ち、人口はわずか132万人の風の国、氷河の国、羊と牛の国・・・・。途方もなく広大というしかない、日本の風景とはまるで異なる国を、点のように移動しながら、池澤夏樹さんが旅をしながら、あこがれの地で思索しながら、言葉をつぐむ。自然を畏敬しながら、大自然に抱かれながら、それを実感しながら、つつましやかに人間らしく豊かに暮らす人々の何という神々しさ。

無理とは承知しながらも、あちら側の世界にとてつもなく惹かれる自分がいる。自分の知らない世界の果てには、なんて素敵な世界が在るのだということを知る。なんて素敵な人間が。

詩人的な感性を併せ持つ72歳の作家が、次々に宝石のような言葉を、まるで子供のように発音する。マゼランの名がついた海峡での、思索、氷河での思索、3千5百年前、当時の人々が暮らしていた洞窟に描いた、たくさんの手形の絵の前での思索。

今日は桑江良健康氏の絵です。
東京都の5倍の広さの牧場で出会った、71歳の同年代のガウチョ(羊を馬に乗ってあやつる牧童、自由自在に馬を乗りこなす姿、サイコーにカッコよかった)とのやり取り。

彼が14歳から57年間作っている同じ料理(羊・玉ねぎ・ジャガイモ・コメを同時に煮て、味付けをしたもの)のおいしさに舌鼓を打つ池澤夏樹さんの表情のクローズアップ等々。

我が日常生活とは、完全に異なる遠く離れた反対側の国、風景の中でのライブ感覚で紡ぎ出される言葉は、まさに詩人、旅人ならではのおもむきで、66歳のいまの私を魅了した。

以前も書いた記憶があるのだが、齢を重ねると動きが鈍くなるが、逆に思索は深まる(ように私は感じている)年の功というか、重ねないと見えてこない、感じられない世界が、忽然と感じられるようになるのである。

動けるだけ動ける時には、見えなかった、感じなかった世界を感じられる喜びがある。だから下り坂の中で見つけた喜びを、拙文で吐露したくなる。

ところで私も、旅が大好きである。池澤夏樹さんにとっての旅とは と訊かれての答えが素晴らしい、【一生を棒に振ってもしてもいい道楽である】と。私も小さくても気ままな旅がしたい。

私も人生に行き詰まると、ささやかに旅を繰り返してきた、そして生き延びた。そして思うのだ。やはり自分も旅人の端くれとしての感覚を、日常生活においても、失いたくはないものだとの思いに、池澤夏樹さんの発する言葉に撃たれた。

静けさの中に、稲妻のように虹のように、瞬時輝く宝石のような旅言葉。ヒトは何故か移動し、非日常を求める。それはきっと太古から人類は移動してきた原始的記憶のなせる何かなのだろう。いいものを見た。


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