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2022-10-15

金井喜久子著【愛のトウバルマー】ある歌姫の物語、読みました。そして想う。

 沖縄から戻って、頭の中にこの旅で受けた刺激を整理できないまま、肉体労働仕事をしながら、五十鈴川だよりを打つことが叶わず、今日ようやく打っている。

来年春の4月23日、RSKの能楽堂ホールを押さえたので、多嘉良カナさんを企画することにした。まだカナさんにはお伝えしていないのだが、私の中の腹は決まった。その事は一番先に、家族に伝えた。家族に一番先に伝えたのは、春の私の10年ぶりの企画が実現できたのは、全面的な家族のバックアップがあったからである。

さて、詳しくは記す時間がないのだが、那覇を発つ日に、長年のカナさんの理解者であるT氏から一冊の本を手渡された。タイトルは【愛のトウバルマー】ある歌姫の物語である。カナさんのお師匠さん、初代可菜(カナ)さんのノンフィクション小説である。

数奇な宿命を生きた家族の物語

まったくカナさんのことを、存じなかった、無知な私である。仕事の前、新鮮な頭で5日かけてゆっくりと読み終えた。書いたのは可菜さんの妹の金井喜久子さんである。昭和59年に上梓されている。(私は32才、富良野の大地で悪戦苦闘していた)

川平家という宮古島の旧家に生まれ、激動の時代、太平洋戦争、沖縄戦を生き延びるまでの可菜さんの壮絶な人生が、綴られている。姉に対するおもい、琉球に生まれたおもい、比類ないふるさとへのおもいが、愛あふるる一念が、こもっている希な書物である。

読み終えたばかりなのだが、川平家の一代記というにとどまらず、音楽、歌というものに人生を賭した姉妹の物語である。羨ましいくらいの愛に満ちた姉に対する妹のおもいに打たれる。姉は沖縄の歌、妹は西洋音楽を学びながら、沖縄の旋律を取り入れながら、沖縄の現代音楽を創作してゆく。

今日はこれ以上触れないが、沖縄戦を生き延び、戦後可菜さんは養女を迎え、結果的に2代目となる、カナさんに歌と踊り一切を伝える。この事には触れられていない。来年私はこの初代可菜のお弟子であるカナさんを企画できるという、身に余る運命の糸を引いたのである。

愛のトウバルマー、沖縄戦の最後の姉が妹に語り伝えた、一文の悲惨さは、筆舌に尽くしがたい。ほんのページが残りすくなるにつれて、老いた私の体は想像力が刺激され、おもいはウクライナやアフガニスタン、他の戦争被災地で今も続く理不尽不毛不条理エリアに誘われた。

ありがたいことに、私はもう血気逸るほどには若くはない。若くはないことを、なんとかいい方向に向きを変えて考え、若いかたとはまた異なる。老いたからこそゆっくりと企画ができる世界もあることを、実証したい誘惑を押さえられないのである。

今朝はただ、来年の春へ向けて、暫し老いという言葉を振り払い、カナさんの歌と踊りをRSKの能楽堂でご披露したいおもいである。よき聴衆に来ていただきたく、微力をつくすもりである。


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