【十二夜】、これまでの人生で私は2本の素晴らしい舞台作品を見ている。もう40数年前のことである。でもいまだその時に受けた感動は、私の中で消えずに生きている。
一本はまだ二十歳前、文学座の十二夜、出口典夫演出(のちにこの人の劇団シェイクスピアシアターに入ることになるなんて考えもしなかった)。
もう一本は、ロイヤルシェイクスピア劇団の十二夜、演出はジョンバートン。 日本語と英語(原語)で見たわけだが、印象はまるでことなっていた。だからこそ面白い。
本家の十二夜は、格調高く気品があり舞台のセット、衣装俳優たちの演技、すべてが素晴らしかった。先に日本の十二夜を見ていたために内容、展開はよくわかっていたから、十分にお芝居を楽しめた。(ヴァイオラを演じたジュディ・デンチの演技が素晴らしかった、今も脳裏に浮かぶ)本質的な異文化との出会い。
だが、若かった 私には翻訳された日本語による十二夜の方が数段面白かった記憶がある。それはよくわかる日本語(言葉)であったからだと、やはり思う。
いまの私の年齢で、この二本の舞台をみたらまた全然異なる見解が生ずるだろうことは明らかである。それほどにシェイクスピアの作品群は見る年齢でどのようにも乱反射し、見る人によって千差万別の楽しみ方が可能なのである。
さて、遊声塾の十二夜に関して。あれから40数年の歳月を経て、まさか自分が私塾を立ち上げて十二夜の発表会を(ができるなんて)やることになる、なんてことは思いもしなかった。
それも四人は入塾したばかりの塾生とともに、無謀この上ないことは十分に承知している。そこまでしてなぜにやるのかを、私の拙文で説明することは野暮なことである。
言葉、言葉、言葉で劇的宇宙を構築するシェイクスピア世界を、現代の我々が声に出すと、いかに我々の肉体言語が貧弱になったのかを思い知らされる。
私自身声を出す器である要の体が、息も絶え絶え悲鳴を上げるのである。シェイクスピアの洪水のように繰り出される言葉の前に沈没する。
我ながら無謀なことをやっているなあ、と何度も痛感する。だがいまだ、あの憧れの 名セリフを生きている間に声に出しておきたいという、見果てぬ願望(煩悩)はやまない。
このような無謀な塾に、月謝を払って入塾してくる人がいる。そのことがまた言葉にはならない形で私を熱くさせる。(塾生は私にとっては夢を追う無謀な仲間である)
十二夜のオリビアのセリフだが、【人間は自分で自分を思い通りにはできない】とある。【なるようになるのが道理なら、それに任せるしかない】と、今の私もそれに似たような心境である。
人間は老いる器である。だからこそ素晴らしいのである、という認識の側に私は立つ。アンチエイジングには私はアンチである。老いが無残な形でニュースになる現代という時代に、一滴の声を放ちたい、と思わずにはいられない。
電気も、電話も、車も、電車も、あらゆる機器も、利便性のかけらもない時代の肉体がダイナミックに躍動するシェイクスピア作品群は、闇の中から現代を照らし、私に今を生きる勇気を与え、血の沸き立つ言葉を放っている。
W・シェイクスピアが劇世界に込めた、人間についての想像力あふるる言葉にすがり、充実した晩年ライフを若い方々とともに見つけるべく、【想像力】という神から与えられた宝を、今しばらく磨き続け、そのための楽しい努力を仲間と模索し続けたいのだ。
バーチャルに(引きこもりがちに)文字を見て黙読するのではなく、身体で声に出して歌う。子供はお砂場があれば何もなくても退屈しない、私も含め、大人はおおかた子供時代を忘れがちだ、何故か?私は悩む。
ハムレットのように、敢然と自分自身と対峙する 力(勇気)がであるのか、ないのかそれが問題だ。
ウイリアム・シェイクスピアはあらゆる意味で、私にとって無数の万華鏡のような 作品を書いている。本の中に眠っている言葉を遊声塾の面々と掘り起し、今を生きている声をささやかに吹き込みたい。
いよいよ遊声塾発表の日が来ましたね。
返信削除おめでとうございます。
みなさん、思い存分声を出して下さい。
楽しみにしています。
K氏と行きます。
遊声塾!別名無謀塾に入塾して一月・・・正確には3週間!それで舞台に立つとは如何にも・・・ そこには 何かに呼び寄せられたような不思議な感覚がありました。それは、何気なく手にした一枚のチラシから始まりました。シェイクスピアも遊声塾も知らなかった私がいつの間にか舞台に立ち、シェイクスピアを読んでいる。ナレーションがない言葉だけの戯曲の世界。そして言葉の端々に感じる今につながる感性。この出会いを大切にシェイクスピアの世界を旅してみようと思います。塾長!よろしくお願いします!
返信削除そして、あの長い時間聴いて下さった方々に心より感謝いたします。
無謀なチャレンジでお聞き苦しい点も多々あったと思います。どうぞお許しを・・・
オリヴィア・アントーニオ役 伊島久美